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【昇降機メーカー編⑳】落札したのに誰も喜ばなかった日

【メーカー編】落札したのに青ざめた日――エレベーター2台を1台分で受注した話

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入札が重なった慌ただしい一週間

今から20年ほど前のことです。

当時の私はメーカーの営業担当として、多くの入札案件に携わっていました。

その週は特に案件が立て込んでおり、連日入札対応に追われていました。

問題の案件の入札書を作成したのも、夜11時頃だったと記憶しています。

積算担当から提示された金額をもとに入札書を作成し、翌日の入札に備えました。

今振り返れば、その時点で仕様書をもう一度読み込むべきだったのでしょう。

しかし当時は時間に追われ、

「積算担当が確認している」

「責任者も見ている」

という安心感もあり、内容を深く確認することなく手続きを進めてしまいました。


入札会場で感じた違和感

入札当日。

会場では各社の入札金額が順番に読み上げられていきます。

私はいつものように淡々と聞いていました。

ところが途中から、ある違和感を覚えます。

「うちの金額、ずいぶん安いな……」

他社の金額が読み上げられるたびに、その思いは強くなっていきました。

しかし、その時点ではまだ何が起きているのか分かりませんでした。


まさかの落札

すべての金額の読み上げが終わると、担当者が最低制限価格の入った封筒を開封しました。

会場が静まり返ります。

そして発表された結果は――

当社の落札でした。

私は正直なところ、状況がよく理解できませんでした。

とりあえず立ち上がり、

「ありがとうございました!」

と挨拶しました。

営業担当としては当然の行動ですが、頭の中は混乱していました。


会社の反応は「おめでとう」ではなかった

会社へ連絡すると、返ってきたのは祝福の言葉ではありませんでした。

「えっ? 本当に落札したの?」

そんな驚きの反応だったのです。

しばらくして責任者から電話が入りました。

そして開口一番、

「今から辞退できないか?」

と言われました。

私は思わず、

「できるわけないでしょう」

と返した記憶があります。

すでに落札は確定しています。

今さら辞退など現実的ではありませんでした。


エレベーター2台を1台分で計算していた
原因はすぐに判明しました。

入札仕様書には、

「エレベーター2台 一式」

と記載されていたのです。

ところが、

積算担当者
責任者
実際に札を入れた私
の三人とも、その内容を見落としていました。

全員が無意識のうちに、

「エレベーター1台分」

として認識していたのです。

結果として、1台分の金額で2台分を受注する形になってしまいました。

利益どころか赤字案件でした。


三重チェックでも防げなかったヒューマンエラー

この話をすると、

「誰か一人のミスだったのでは」

と言われることがあります。

しかし実際には違います。

三人が関与していました。

本来であれば三重チェックです。

それでも防げませんでした。

忙しさの中で、

「誰かが確認しているだろう」

という思い込みが生まれていたのかもしれません。

今ならAIに仕様書を読み込ませ、

「数量に見落としはありませんか」

と確認する方法も考えられます。

しかし当時は、人間の目と経験だけが頼りでした。


あの落札と四国異動

この案件の翌年、私は四国へ異動となりました。

もちろん会社は、

「異動と案件は関係ない」

と言うでしょう。

周囲もそう言います。

私自身も本当のところは分かりません。

ただ、

「エレベーター2台を1台分で落札した案件の翌年だった」

という事実だけは今も記憶に残っています。

20年経った今では笑い話として語れますが、当時の私は笑う余裕などありませんでした。

入札会場で「ありがとうございました!」と立ち上がってから、本社に呼び出されるまでの数時間は、今でも忘れられない出来事のひとつです。