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【昇降機メーカー編⑫】秋田と山形の県境で揺れた3年間 ― 法令の違いが教えてくれたこと

秋田と山形の県境で揺れた3年間 ― 法令の違いが教えてくれたこと

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秋田で覚えた「当たり前」が通用しなかった県境

私が昇降機の仕事に携わり始めた頃、秋田県での実務が私の“常識”のすべてでした。
当時の呼称でダムウェーター、現在の小荷物専用昇降機。人が乗れない荷物専用のリフトで、構造も比較的シンプルな設備です。

秋田県では、この設備は 定期検査報告の対象外 とされていました。
そのため、新設時の確認申請も不要で、完了検査もありません。
「物理的に収まれば設置できる」――それが秋田での運用であり、若い頃の私はそれを疑うことなく受け入れていました。

しかし、山形県に入った瞬間、その常識はまったく通用しなくなります。
同じ小荷物専用昇降機でも、山形県では フロアー型やテーブル型の一部が定期検査報告の対象 となり、新設時には確認申請が必要になります。
秋田では“設備”だったものが、山形では“建築物の一部”として扱われる。
県境を越えるだけで、仕事の重さがまったく違うものになることを痛感しました。

 既設建物への設置で跳ね上がる負担

新築ならまだいいのです。図面も揃っており、建物側の情報も整理されています。
しかし既設建物への設置となると、話は一気に複雑になります。

山形県では、
・既設建物の図面添付が必須
・行政から構造検討を求められることがある
・設計事務所への相談が必要
・確認申請と完了検査が必要
・定期検査報告の対象となる

秋田では必要のなかった作業が、山形では当たり前になります。
小荷物専用昇降機なのに、手続きは“普通のエレベーター”と同じ扱いになる。
検査立ち会いも必要となり、一台に対する手間は 倍以上 に膨れ上がりました。

しかし、ここでさらに苦しい現実があります。
構造検討や行政対応の手間は本来コストに反映すべきですが、他メーカーとの競争があるため、価格を上げることができません。
労力だけが増え、利益は薄くなる。
制度の違いが、技術者の負担だけを増やすという“二重苦”でした。

 行政とのやり取りが教えてくれた「生きた法令」

ただ、この3年間は苦しいだけではありませんでした。
むしろ、私の職業人生にとって 大きな財産になった時間 でもあります。

法令は、条文を読んだだけでは身につきません。
行政との質疑、打ち合わせ、現場との調整――こうした実務の中で初めて“生きた法令”になります。

山形での3年間で身についたものは、今振り返ると非常に大きいものでした。

・条文の読み方の癖
・細則の構造の理解
・行政への質疑の作法
・打ち合わせの温度の読み方
・現場と法令の橋渡しの技術

秋田と山形の制度差に振り回されながらも、私は法令の解釈の幅や行政裁量の感覚を体で覚えていきました。
この経験は、後の東北全域での行政対応において大きな力となり、確かな“血肉”となりました。

 苦の中で育った技術者としての骨格

秋田で覚えた常識が通用しない。
山形では一台の手間が倍以上になる。
行政との打ち合わせが続き、設計事務所との調整も必要になる。
若い技術者にとっては、決して軽い時間ではありませんでした。

しかし、この3年間があったからこそ、私は法令と現場の両方を理解する営業として成長できました。
苦労の多い日々でしたが、確かに後の自分を支える基礎となった時間でした。