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【百貨店編 ⑭】社員通用口の向こう側——スーツのまま“自分に戻る”場所

社員通用口の向こう側——スーツのまま“自分に戻る”場所


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百貨店の社員通用口は、私にとって“職業人としての入口”であると同時に、“自分に戻る出口”でもありました。
そこを通るたびに、気持ちが切り替わるのを感じていたのです。

通用口を入ってすぐのところには、「社員クラブ」と呼ばれるスペースがありました。
アンコール提供のバーが併設されていて、仕事終わりの社員たちが静かにグラスを傾ける姿も見られました。
同じ建物の中にありながら、そこは明らかに“売場”とは異なる空気が流れていました。

制服姿のままでも、そこに足を踏み入れると、ふっと肩の力が抜ける。
職場の延長線上にある“オフ”の空間。
それは、日々の緊張をほどくための、ささやかな避難所のような場所でした。

売場では見せない表情、交わされる本音、沈黙の心地よさ——
社員クラブには、百貨店という舞台の“裏側の人間模様”が静かに息づいていたように思います。

そして、社員クラブで一息ついたあとは、そのまま外の歓楽街へと繰り出す——
そんな日々が、当時の“平常運転”でした。

百貨店の仕事は体力も気力も使いますが、だからこそ、仕事終わりの一杯が格別でした。
同僚たちと連れ立って、街の灯りの中へと歩き出す。
ネクタイを少し緩め、笑い声を交わしながら、いつもの店へ向かう。
そんな時間が、明日への活力になっていたのです。

1980年代は、よき時代でした。
景気も人の気持ちも、どこか余裕があって、
「働くこと」と「楽しむこと」が、もっと自然につながっていたように思います。

今思えば、あの頃の歓楽街には、ただの飲み屋以上の“居場所”がありました。
職場では見せない表情、語られない本音、そして静かな連帯感。
それらが、夜の街の片隅で、そっと交わされていたのです。