リーダー資質ゼロの新卒が、売り場を率いるということ

新卒が売り場の“リーダー”になる構造
百貨店の売り場には、同じ制服を着た女性スタッフと、スーツ姿の男性社員が混在しています。一見すると同じ組織に属しているように見えますが、実際にはメーカーや商社からの派遣スタッフ、そして百貨店本体の正社員という複数の立場が入り交じっています。
その中で売り場の“リーダー”を担うのは、意外にも新卒で入社したばかりの若手社員です。知識も経験ももっとも乏しい四大卒の新人が、長年売り場を支えてきたベテランスタッフをまとめていく——この構図は、外から見る以上に複雑で、難易度の高い役割でした。
リーダー経験ゼロの私が立った場所
学生時代を振り返っても、私はリーダー向きのタイプではありませんでした。体育会系でもなく、生徒会や委員会で中心的な役割を担った経験もありません。小中高を通じて学級委員を務めたことは一度もなく、保健委員や図書委員といった静かな役回りばかりでした。
さらに、売り場は女性スタッフが多数を占める環境です。女子とのコミュニケーションが得意なタイプであれば、自然と信頼を得やすかったのかもしれません。しかし、私にはその資質もなく、「もっとも向いていない職種を選んでしまったのではないか」という不安を抱えながらのスタートでした。
年上のスタッフを率いるという重圧
十数人のスタッフをまとめるというのは、想像以上に大変なことでした。年齢も経験も自分よりはるかに上の方々に対して、どう接し、どう信頼を得ていくのか。マニュアルには載っていない“人間関係の正解”を探し続ける日々でした。
とくに、派遣スタッフの方々は売り場の歴史も商品知識も豊富で、私よりはるかに現場を理解しています。その中で新卒の自分が指示を出すことに、最初は強い抵抗感がありました。信頼を得るまでには時間がかかり、時には自分の未熟さを痛感して落ち込むこともありました。
それでも、毎日の挨拶や小さな相談、売り場の片付けを一緒に行うといった積み重ねが、少しずつ関係を変えていきました。リーダーシップとは声の大きさではなく、誠実さの積み重ねなのだと気づいたのも、この頃です。
「女性が多い職場は楽そう」という誤解
一般の方からは、「女性が多い職場なんて、うらやましいね」と冗談めかして言われることもあります。しかし、現実はまったく違います。むしろ、いまだに“男社会”の職場のほうが役割や指示系統が明確で、若手にとっては動きやすいのではないかと感じることすらありました。
百貨店の売り場は、表向きは華やかでも、裏側では複数の立場が交錯し、暗黙のルールや人間関係が複雑に絡み合っています。その中で新卒がリーダーとして立つというのは、単なる業務以上の難しさを伴うものでした。
それでも得られたもの
振り返れば、あの経験は私にとって大きな財産になりました。リーダーシップの資質がないと思っていた自分でも、時間をかけて関係を築き、少しずつ信頼を得ていくことはできました。
「向いていない」と感じた場所で、どう踏ん張り、どう成長するか。あの売り場での日々は、社会人としての基礎をつくってくれた時間だったと、今では思えるのです。
次回はこちらです。百貨店売り場における男性正社員の役割──“裏方”であり“スーパーサブ”であるということ