【百貨店編③】“違い”は最初からあった
――八王子の売場で見た同期のまなざし

八王子の売場で始まった実地研修
配属前の研修で、私は東京都八王子にある既存店舗での売場実習に入りました。
保土ケ谷からの長距離通勤は想像以上に体力を奪い、毎日がぎりぎりの状態でした。売場に立ち、指示されたことをこなすだけで一日が終わっていく――そんな日々が続いていました。
新入社員としての私は、目の前の業務に追われるばかりで、売場全体を見渡す余裕などほとんどありませんでした。とにかく遅れず、迷惑をかけず、決められたことをこなすことで精一杯だったのです。
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同期の女性社員が見ていた“別の景色”
そんな中、同じ売場に配属された同期の女性社員の姿が、今でも強く印象に残っています。
彼女は私と同じ新入社員でありながら、すでに“現場を見る目”を持っていました。
ある日、彼女はふとこう言いました。
「この売場、レジが少なすぎて、お客様がずっと並んでいるのが気になるんです」
確かに、私もその光景は見ていました。
しかし、それを“問題”として捉え、しかも課長に「レジを増やせないか」と提案したのは、彼女だけでした。
その着眼点の鋭さと、行動に移す力に、私は驚きました。
私はというと、目の前の作業をこなすことで精一杯で、売場全体を俯瞰する視点など持てていなかったのです。
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“最初から違っていた”という実感
後に彼女が、ある既存店でトップにまで昇進したと聞いたとき、私は心から納得しました。
あのときの彼女の視線は、すでに“現場を動かす人”のそれだったのだと思います。
新入社員は、みな同じスタートラインに立っているように見えます。
けれど実際には、「何を見ているか」「どこに気づくか」で、すでに差が生まれているのだと、彼女の姿から学びました。
私は、あの八王子の売場で、彼女のような同期と出会えたことを、今でもありがたく思っています。
自分にはなかった視点を、同じ立場の仲間が持っていた。その事実は、私にとって大きな刺激であり、後の仕事観にも影響を与えました。
均等法施行直後に見えた“新しい視線”
そして振り返れば、あの出来事は1985年――男女雇用機会均等法が施行された直後の頃でした。
女性社員が自ら課題を見つけ、売場運営に踏み込んで提案する姿は、当時としては決して当たり前ではありませんでした。
しかし彼女の行動力や視線の確かさは、まさにその後の時代が向かう方向を先取りしていたのだと思います。
あの瞬間に立ち会えたことは、私にとって「時代の変化の予兆」を目の前で見たような体験でした。
同じスタートラインに立った同期の中から、こうして新しい価値観を体現する人が現れていた――その事実は、今も忘れられません。
■ 次回予告:休日が営業日という現実と、そこから見えたこと