【百貨店編①】内定者アルバイトという“前哨戦”
――S百貨店グループに入るということ
- 内定通知とともに届いた“もうひとつの務め”
- 年末の百貨店はまさに“戦場”
- “もうすぐ社員”として扱われた日々
- 冬の朝に受けた忘れられない指摘
- 組織のリズムに触れた瞬間
- あの朝が教えてくれた“肯定から始める”という姿勢

1984年・歳暮期アルバイトで学んだ「まず肯定する」という作法
内定通知とともに届いた“もうひとつの務め”
1984年の就職活動で、私はS百貨店グループから内定をいただきました。10月末の内定通知を受け、周囲の友人たちは春までの“自由時間”をどう過ごすかに胸を膨らませていました。しかし私たち内定者には、もうひとつの“お務め”が待っていました。それが「歳暮期アルバイト」でした。
形式上は“要請”でしたが、実質的には参加が前提という空気がありました。断ることも不可能ではありませんが、入社前から協調性を疑われるリスクを考えれば、ほとんどの内定者が素直に従っていたように思います。
年末の百貨店はまさに“戦場”
年末の百貨店は、想像以上の忙しさでした。ギフトセンター、物流センター、店舗の応援要員として、内定者はそれぞれの持ち場に振り分けられます。私は都内有楽町の食品売場に配属されました。
細かな作業内容は薄れてしまいましたが、クリスマスケーキを販売していた記憶だけは鮮明に残っています。冷たい外気の中、ショーケースのライトに照らされたケーキの白いクリームが妙に眩しく見えたものです。
“もうすぐ社員”として扱われた日々
このアルバイトが普通と違っていたのは、私たちが「もうすぐ社員になる人間」として扱われていたことでした。売場に立つ前には、挨拶、言葉遣い、身だしなみ、「お客様第一」の姿勢など、社会人としての基本を徹底的に教え込まれました。
「君たちは、もう“うちの人間”なんだから」
そう言われたとき、学生から社会人へと一歩踏み出したような気持ちになりました。
冬の朝に受けた忘れられない指摘
ある冬の晴れた朝、私はいつものように係長に挨拶をしました。
「おはようございます」
「おはよう!今日もいい天気ですね」
「でも寒いですね」
その瞬間、係長の表情が少し曇りました。
「そうじゃない。“でも”じゃなくて、“そうですね、いい天気ですね”って返すんだよ」
最初は意味が分かりませんでしたが、すぐに理解しました。まずは相手の言葉を肯定し、同じ景色を共有する――それが、この職場での朝のコミュニケーションの作法だったのです。
組織のリズムに触れた瞬間
その日から私は意識して「今日はいい天気ですね」と声をかけるようにしました。すると社員さんもパートさんも、決まって「そうですね、いい天気ですね」と返してくれます。
たったそれだけのやりとりですが、そこには同じ空気を共有する心地よいリズムがありました。私はようやく組織の一員としての第一歩を踏み出したのだと感じました。
あの朝が教えてくれた“肯定から始める”という姿勢
今でも私は、朝の挨拶をとても大切にしています。まずは相手の言葉を肯定し、同じ景色を見てから自分の言葉を添える。あの冬の朝に係長からいただいた指摘は、40年近く経った今も私の中で生き続けています。