三方ヨシの制度改正──ユーザーも業者も行政も救われた昇降機の新ルール

昨年度4月に施行された国土交通省告示第1148号は、建築の専門家だけでなく、一般の生活者にとっても静かに大きな意味を持つ制度改正でした。普段の生活ではあまり意識されませんが、階段昇降機やホームエレベーターといった福祉機器の扱いが大きく変わり、利用者・業者・行政の三者すべてにとって「助かった」と言える内容になっています。私はこれを、まさに“三方ヨシ”の制度改正だと感じています。
まず、今回の告示が関係しているのは、椅子式階段昇降機やホームエレベーターといった、主に高齢者や障害のある方の移動を助ける設備です。これらは生活の質を大きく向上させる大切な機器ですが、実はこれまで建築基準法の扱いが非常に難しく、法令上は「設置できない」とされるケースが多くありました。階段の幅が狭くなる、建築確認が必要になる、用途によってはそもそも設置が認められないなど、制度の壁がいくつもあったのです。
ところが現場では、これらの設備が必要とされる場面が多くあります。高齢化が進む中で、階段の昇り降りが難しくなった方にとって、階段昇降機は生活を支える大切な道具です。自治体が補助金を出して設置を支援している地域もあり、実際には多くの家庭で使われてきました。しかし、建築基準法の枠組みでは扱いきれず、行政も「違法とは言い切れないが、合法とも言いにくい」という、いわば“グレーゾーン”の状態が長く続いていました。
今回の告示は、この長年のねじれをようやく解消しました。建築基準法施行令には、既設の小規模な建物であれば建築確認を不要とする特例があります。しかし、その対象となる「危害発生のおそれが少ない昇降機」の定義が曖昧で、自治体によって判断が分かれていました。そこで告示1148号が、この“危害が少ない昇降機”の具体的な基準を明確に示したことで、制度としての位置づけがはっきりしたのです。
この結果、これまで法令上は“違法扱い”になっていた設備が、正式に「問題なし」と認められるようになりました。定期報告で指摘されることもなくなり、所有者が不安を抱える必要もありません。長年使ってきた設備が、制度の側から「大丈夫です」と言ってもらえたようなものです。これはユーザーにとって大きな安心につながります。
業者にとっても、この改正は大きな前進です。これまでグレーゾーンの中で施工してきた設備が、正式に制度の枠に収まりました。新しく設置する場合も、建築確認が不要であることが明確になり、手続きの負担やリスクが大幅に減ります。福祉機器の普及にも追い風となり、必要とする人により早く、より確実に届けられるようになります。
行政にとっても、この告示はありがたい内容です。これまで黙認してきた設備が制度上整理され、定期報告の現場での混乱も減ります。監督行政としての説明責任も果たしやすくなり、制度の透明性が高まりました。まさに、ユーザー、業者、行政の三者すべてにとってメリットがある“三方ヨシ”の制度改正と言えます。
建築基準法の世界では、制度が現場に追いつくことは決して多くありません。むしろ、現場が制度に合わせて苦労することのほうが一般的です。その中で今回の告示は、制度が現実に歩み寄った稀有な例でした。高齢化が進む社会において、福祉機器の役割はますます大きくなります。今回の改正は、その流れを後押しする静かでありながら確かな一歩だったと思います。
今後も、制度と現場の間にある“すきま”を埋める動きが進むことを期待したいと思います。
本記事は、令和6年告示第1148号に基づいて構成しています。 詳細な制度内容や告示の原文については、以下の公式資料をご参照ください。
法改正後(令和7年4月以降) エレベーター申請について | ユーディーアイ確認検査株式会社