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止まる勇気を持つ機械 ― スカイツリーのエレベーター停止から考える安全文化

止まる勇気を持つ機械 ― スカイツリーのエレベーター停止から考える安全文化

東京スカイツリーのエレベーターが停止し、長時間にわたって利用者が閉じ込められたというニュースが報じられました。

5時間半後に20人を全員救助…スカイツリーのエレベーター緊急停止で閉じ込め : 読売新聞

SNSやテレビでは「怖い」「大事故だ」といった声が広がり、世間は大きく反応しています。しかし、安全工学の視点から見ると、この出来事は少し違った意味を持っているように思います。

多くの方は「止まった=危険」「動いている=正常」と考えがちです。しかし、エレベーターや自動車、産業機械など、人の命を預かる機械はすべて、異常を検知した場合は安全のために停止するよう設計されています。これは故障ではなく、むしろ「安全側に倒れるための正常な動作」です。今回のスカイツリーの停止も、原因はまだ発表されていませんが、少なくとも人身事故が起きていないという事実だけで、機械が利用者を守った可能性が高いと考えられます。

実際、エレベーターの停止は日常的に発生しています。強風、微振動、地震、荷重の偏り、ドアのわずかな異物、温度変化など、さまざまな外乱に対してセンサーが敏感に反応し、安全装置が作動します。これは「壊れたから止まった」のではなく、「危険を感じたから止めた」という動作です。むしろ、異常があるのに動き続けてしまうほうが、はるかに危険です。

しかし、一般の利用者にはこの仕組みがあまり知られていません。そのため「止まった」という事実だけが強調され、メディアもセンセーショナルに報じます。もし今回、人が転倒したり、挟まれたり、急停止で負傷したりしていたら、世間の反応は比較にならないほど大きくなっていたはずです。行政も即座に動き、メーカー名が大きく報じられ、立入検査や再発防止命令が出るレベルになります。つまり、本当に大騒ぎになるのは“人身事故が起きたとき”であり、停止そのものは安全装置が働いた証拠であることが多いのです。

今回のスカイツリーの件も、原因が発表されるまでは断定できません。しかし、「止まった」という事実だけで危険と決めつけるのは早計です。むしろ、機械が異常を感じ取り、利用者を守るために停止した可能性を冷静に考えるべきだと思います。

私たちは便利さに慣れすぎて、「止まること」を恐れすぎているのかもしれません。しかし、機械が止まるのは、私たちを守るためです。止まる勇気を持った機械こそ、安全な機械なのです。

今回のニュースをきっかけに、エレベーターに限らず、あらゆる機械の「安全側に倒れる設計」について、多くの方が理解を深めるきっかけになれば幸いです。