つながらない権利と“継がぬ継承”──静かに見送られた法改正と、私たちの選択

2026年4月に施行予定とされていた労働基準法改正案が、昨年末に通常国会への提出を見送られたという報道がありました。勤務間インターバル制度の義務化や、「つながらない権利」のガイドライン策定など、働き方の“間”を見直す動きとして注目されていた法案です。
「つながらない権利」とは、勤務時間外や休日に業務連絡に応じない自由を保障する考え方です。フランスなどではすでに法制化されていますが、日本ではまだ制度化されていません。それでも、2026年4月から始まると信じていた方も多いのではないでしょうか。私もその一人でした。
私は契約社員という立場ですが、会社支給のスマートフォンは休日でも確認しています。非常時の連絡は致し方ないと思っています。ただ、月曜日でよいような連絡が、土曜日の昼下がりに電話で届くと、心の静けさが乱されることがあります。メールやLINEであれば、読むタイミングを自分で選べますが、電話は「今すぐ出なければならない」という圧力を伴います。
特に気になるのは、上位者から下位者への一方的な連絡です。断りづらい、無視できない、出なければならない──そんな空気が、休日の“自由”を静かに侵食していきます。上司がメールやLINEを見ないために、部下が電話で呼び出される。そんな構図が、今も多くの職場に残っているのではないでしょうか。
この構造は、かつての体育会的な上下関係にも似ています。自分が厳しくされたから、後輩にも同じように接する。理不尽を受け入れることが「成長」だと信じて疑わない。そんな風土が、今も職場の一部に残っているように感じます。
しかし、私はこう思います。自分がやられたから、下にもやるのではなく、自分が大変だったからこそ、下にはやらない。苦労や理不尽を“通過儀礼”として再生産するのではなく、静かに断ち切る。そうした“継がぬ継承”こそが、これからの働き方に必要なのではないでしょうか。
私は年長者として、無神経な連絡を受け流すこともできます。しかし、気の毒なのは若手の方々です。断れない、休めない、心が休まらない。そんな状況を見過ごすことはできません。
BOD社の解説記事にもあるように、今回の見送りは「白紙撤回」ではなく、制度設計を見直すための調整期間と捉えるべきだと思います。つまり、企業や現場が“先回りして備える”ことができる時間が与えられたとも言えるのではないでしょうか。
たとえば、こんな一文を就業規則に加えることもできるかもしれません。
「勤務時間外および休日における業務連絡は、原則として緊急時を除き、メールまたはチャット等の非同期手段を用いること。電話連絡は、本人の同意または緊急性が高い場合に限る。」
休日の電話は、時に心の襞を乱します。それでも私は、波立てずに受け流します。若い方々が傷つかぬように、静かに、品位を守る者でありたいと思っています。
出典:BODグループ「2026年 労働基準法改正は見送りに」
https://www.bod-grp.com/blog/knowhow/labor-standards-act-revision/