ネット口座の落とし穴──利便性の先にある“静かな混乱”を見つめて

ネット証券やネット銀行の普及により、私たちの暮らしは大きく変わりました。スマートフォンひとつで資産運用ができ、通帳も印鑑も不要。手数料も安く、スピーディー。現役世代にとっては、まさに理想的な金融環境といえるかもしれません。
けれども、その便利さの裏には、町の電気屋さんと家電量販店の違いのように、“人のつながり”が今もなお必要とされる理由が静かに潜んでいます。量販店が安くて早くても、困ったときに駆けつけてくれるのは、顔の見える町の電気屋さん。金融の世界でも、ネット口座と地銀・ゆうちょの窓口には、同じような対比があるのです。
■ ネット口座の“見えない壁”
ネット証券やネット銀行では、すべての手続きがオンラインで完結します。
これはつまり、「本人以外には一切アクセスできない」ということでもあります。
・通帳がない
・郵送物も届かない
・パスワードや二段階認証がなければ、ログインすらできない
本人が元気なうちはそれで問題ありません。
けれども、もし突然亡くなったら。
もし認知症になってしまったら。
もしスマートフォンがロックされたまま、誰にも解除できなかったら。
家族は、そこに資産があることすら気づけないかもしれません。
■ 個人情報保護が生む“静かな混乱”
現代の制度は、「本人確認の厳格さ」を最優先に設計されています。
それ自体は大切なことです。
しかし、その厳格さが“家族の手を縛る鎖”になることもあるのです。
たとえば、携帯電話の解約ひとつとっても、「本人以外は手続きできません」と突っぱねられ、戸籍謄本や委任状を持っても、窓口で何時間も待たされる。そんな話を、私は何度も耳にしてきました。
制度を設計する側が、若くて健康な“今”しか見ていない。
「老い」や「死」や「家族の困りごと」を想像できていない。
それが、今の社会の静かな盲点なのかもしれません。
■ ゆうちょや地銀にある“人の仕組み”
一方で、ゆうちょ銀行や地方銀行では、通帳があり、郵送物が届き、窓口で相談ができます。
戸籍謄本や印鑑証明を持参すれば、相続手続きも進められます。
そこには、「人を信じる仕組み」がまだ残っているのです。
■ これからの備えにできること
ネット口座を否定するつもりはありません。
ただ、「人に伝わる仕組み」も一緒に整えておくことが、これからの時代には必要だと感じています。
・ネット口座の一覧を紙で残す
・家族に最低限の情報を伝えておく
・ゆうちょや地銀に生活資金の一部を置いておく
・終活ノートや資産メモを整えておく
それは、自分のためであり、家族のためでもあります。
そして、社会全体がこの“落とし穴”に気づくことが、未来の混乱を防ぐ第一歩になるのではないでしょうか。