なぜ“縦のインフラ”は見過ごされるのか
――スキー場エスカレーター事故から考える、制度の温度差

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■ はじめに:空気のような存在に潜む危うさ
私たちは日々、エレベーターやエスカレーター、リフトといった「縦のインフラ」に身を委ねて暮らしています。駅、ビル、商業施設、観光地――そのどこにでもあり、当たり前のように使われています。しかし、その“当たり前”の裏側に、どれほどの安全が担保されているのか、私たちはどれほど意識しているでしょうか。
2025年末、北海道のスキー場で5歳の子どもが死亡するという痛ましい事故が発生しました。事故の舞台となったのは、スキー場に設置されたベルトコンベヤー式の「スノーエスカレーター」でした。建築物に付属しないこの設備は、国土交通省の昇降機規制の対象外であり、点検も法的義務ではありませんでした。つまり、制度の“外側”にあったのです。
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■ 見えにくさの構造:なぜ注目されないのでしょうか
「縦のインフラ」は、鉄道や自動車のように“運転者”がいません。利用者はただ乗せられるだけで、主体性を持ちにくいのです。事故が起きても、報道は小さく、社会的な議論に発展しにくい傾向があります。
さらに、業界構造も複雑です。メーカーは大手から中小まで多様で、メンテナンス業者も直営・独立系・下請けと入り組んでいます。管轄省庁も国土交通省、労働基準監督署、特定行政庁などに分かれており、責任の所在が見えにくくなっています。自動車業界のような一元的なリコール制度や事故調査体制も十分に機能しているとは思えません。いわば“隠れた業界”としての体質が温存されているのが現状です。
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■ 制度の“内と外”が生む温度差
建物内のエレベーターやエスカレーターは、建築基準法に基づき国土交通省が所管しており、事故が起きた際には技術的な調査や再発防止策の通知が行われます。一方、スキー場のスノーエスカレーターのように建築物に付属しない設備は、制度の対象外となっています。事故が起きても警察や消防による事実確認にとどまり、技術的な検証や制度的な改善にはつながりません。
この温度差こそが、再発の温床となっているのではないでしょうか。
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■ 提案:空白を埋める制度の再設計を
この問題に対しては、以下のような制度的対応が求められると考えます。
・「簡易移動設備安全管理制度」の創設
スノーエスカレーターのような仮設型・屋外型の移動設備を対象に、設置基準・点検義務・事故報告制度を整備すること。
・事故調査の第三者機関による実施と報告書の公開義務化
航空・鉄道事故のように、社会全体で学べる仕組みを整えること。
・業界構造の透明化と点検制度の質的強化
メンテナンス業者の認証制度や、点検履歴の可視化を進めること。
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■ おわりに:誰もが使うのに、誰も知らない
「誰もが毎日使っているのに、誰も知らない」
そんなインフラにこそ、制度の光を当てるべきではないでしょうか。
事故が起きてからでは遅いのです。だからこそ、今、制度の“外側”にある危うさに目を向けたいと思います。
そして、静かに問いかけたいのです――「このままで、いいのでしょうか」と。