甲子園7回制の議論に寄せて──“選手ファースト”を本気で考えるなら、全校が甲子園で1試合を
今、夏の甲子園大会における「7回制」導入が議論されています(参考:日刊スポーツ「高校野球7イニング制『28年春から採用が望ましい』会議の最終報告を公表」)。
高校野球「7回制」28年センバツから導入か、検討会議が提言 加盟校からは反対も根強く - 高校野球 : 日刊スポーツ
猛暑対策や選手の健康を守るという目的は理解できます。しかし、その手段として「試合時間の短縮」だけが先行することに、私は違和感を覚えます。
本当に“選手ファースト”を掲げるならば、まず見直すべきは「1球場集中開催」という前提ではないでしょうか。
1日3〜4試合を連日こなす現行の運営体制では、選手の負担も、応援団や関係者の移動・宿泊の負担も大きく、天候順延による日程の圧迫も深刻です。そこで私は提案します。
「甲子園+ほっともっとフィールド神戸」の二元開催方式です。
この方式では、すべての出場校が初戦を甲子園で戦い、2回戦・3回戦を神戸と甲子園で分散開催。準々決勝以降は再び甲子園に集結する。これにより、選手の健康リスクを軽減しつつ、全校に「甲子園で戦った」という記憶を保証できます。

この提案の背景には、秋田県立能代高校の記録があります。
昭和38年、私の出身校・能代高校は夏の選手権大会に初出場しました。しかし、記念大会のため甲子園と西宮球場の二元開催となり、能代高校は2試合とも西宮球場での試合。本番の試合では甲子園の土を踏むことなく大会を終えました。その後昭和52年と53年に連続夏の甲子園出場。甲子園初勝利は平成4年。西宮球場の勝利から29年の歳月が流れました。
さらに、同じ大会で西宮球場のみで試合を行い、その後一度も甲子園に出場できていない学校も存在します。茨城県の水戸工業高校、佐賀県の武雄高校です。両校とも、昭和38年の記念大会で西宮球場に回され、甲子園の土を踏むことなく敗退。その後、春夏通じて再び甲子園に立つ機会は訪れていません。
「甲子園に出た」と記録されながら、実際には甲子園でプレーしていない。その事実が、どれほどの無念さを残すか。だからこそ、すべての出場校が甲子園で1試合を戦うことには、大きな意味があるのです。
以下は、現行の休養日制度(準々決勝翌日・準決勝翌日)を維持しつつ、1日3試合×2球場の運用で無理のない日程を想定した草案です(49代表校・47試合想定)。大会の風物詩性や報道展開の余裕も考慮し、全17日間構成としています。
【二元開催による日程草案(例)】
第1日:開会式+2試合(甲子園)
第2〜第5日:1回戦(甲子園、1日3試合)
第6〜第8日:2回戦(甲子園・神戸、各球場1日3試合)
第9日:休養日(天候順延・調整日)
第10〜第11日:3回戦(甲子園・神戸、各球場1日2試合)
第12〜第13日:準々決勝前休養日(2日間)
第14日:準々決勝(甲子園、4試合)
第15日:準決勝前休養日
第16日:準決勝(甲子園、2試合)
第17日:決勝戦(甲子園、1試合)
この日程ならば、1日あたりの試合数は最大でも各球場3試合に抑えられ、選手の負担軽減と大会運営の安定性が両立できます。また、全校が甲子園で1試合を経験し、勝ち上がれば再び甲子園に戻ってくるという“物語性”も損なわれません。
そして、放送体制の面でもこの二元開催は十分に対応可能です。朝日放送(ABC)とNHKはともに中継体制を持ち、近年はサブチャンネル(Eテレ・BS)やネット配信(NHKプラス、バーチャル高校野球)も活用されています。複数球場での同時中継は、地方大会でもすでに実績があり、技術的にも運用的にも「全試合中継」は十分に実現可能です。
近年、「7回制」や「ドーム球場開催」といった案も浮上していますが、これらは選手の希望というより、主催者側の“大人の都合”が色濃く反映されたものに見えます。一方で、「甲子園で戦いたい」という選手たちの願いは、今も変わらず強い。
制度設計には大人の判断が必要です。しかし、その判断は、過去の記録に学び、未来の記憶を守るものであってほしい。記念大会で西宮球場に回された先輩たちの記憶を無駄にせず、すべての球児に「甲子園の記憶」を平等に届ける。そんな大会運営を、私は願っています。