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記録ではなく記憶に残る者たち──ワールドシリーズと日本シリーズを超えて

スポーツには、記録を超えて記憶に残る瞬間があります。
それは、数字では語り尽くせない“人間の物語”であり、見る者の心を揺さぶる“感情の震源”です。
2025年のMLBワールドシリーズは、まさにそのような瞬間の連続でした。
そして私は、これまで語り継がれてきた過去の英雄たち──稲尾和久、杉浦忠──の活躍を思い出しながら、リアルタイムで新たな神話が生まれる瞬間を目撃しました。


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稲尾和久──絶望からの救済者
1958年の日本シリーズ。巨人が3連勝し、誰もがそのまま日本一になると信じていた状況。
しかし、雨天順延を挟んで流れが変わります。
西鉄ライオンズの稲尾和久投手は、第4戦から第7戦までの4試合すべてに勝利。シリーズ7戦中6試合に登板し、計578球を投げ抜きました。
第5戦では延長10回、自らの打席でサヨナラ押し出し四球を選び、勝利を呼び込みます。
第6戦は完封、第7戦も完投勝利。
この活躍により、「神様、仏様、稲尾様」という言葉が生まれました。
稲尾は、絶望的な状況からチームを救った“救済者”として、記憶に刻まれています。

杉浦忠──完全制覇の象徴
翌1959年、日本シリーズは南海ホークスが巨人を相手に4連勝。
そのすべての勝利を挙げたのが、杉浦忠投手です。
第1戦から第4戦まで、すべて先発登板し、完投・完封を含む4勝。
シリーズMVPは当然ながら杉浦に贈られました。
このシリーズは、短期決戦における“完全制覇”の象徴です。
杉浦は、制度や起用法が柔軟だった時代において、圧倒的な実力で勝利を積み上げた“絶対的エース”でした。

山本由伸──制度を超えた現代の英雄
2025年、MLBワールドシリーズ。
分業制が確立された現代において、山本由伸投手は第2戦で完投勝利、第6戦で先発勝利、そして第7戦では延長戦のリリーフ登板で胴上げ投手となり、シリーズ3勝を挙げました。
これは、2001年のランディ・ジョンソン以来の快挙であり、日本人投手としては史上初のワールドシリーズMVP受賞です。
現代MLBでは、先発投手がリリーフに回ることは極めて稀です。
登板間隔や投手分業の制度を超えて、チームの命運を背負った山本の姿は、まさに“制度を超えた英雄”でした。

大谷翔平──打撃と投球で支えた“二刀の柱”
大谷翔平は、ワールドシリーズで打率.333、2本塁打、OPS1.021という打撃成績を残し、1番DHとして打線を牽引しました。
第3戦では2本のソロホームランで試合を同点に戻し、第6戦では申告敬遠がきっかけで打線が爆発。
第7戦では「1番・投手」として登板し、3回途中まで投げて3失点。勝敗はつきませんでしたが、投打同時出場という異例の挑戦でチームに勢いを与えました。
その姿は、記録以上に“挑戦する者の覚悟”として記憶に残ります。

佐々木朗希──ブルペンの救世主
佐々木朗希は、ワールドシリーズで勝ち星こそありませんでしたが、崩壊しかけたブルペン陣を救う火消し役として2試合に登板。
第3戦では8回途中のピンチで登板し、無失点で切り抜ける力投。第6戦でもリリーフ登板し、流れを渡さずに試合を締めました。
ポストシーズン全体では防御率0.84、WHIP0.63、3セーブという安定感。
彼の存在がなければ、ドジャースはワールドシリーズに駒を進めることすら難しかったでしょう。

私たちの感情と投影
私は、稲尾や杉浦の活躍をリアルタイムで見ることはできませんでした。
しかし、今年のワールドシリーズで山本由伸、大谷翔平、佐々木朗希の姿をこの目で見届けることができました。
それは、記憶の物語化において、私自身が“語り継ぐ側”に立った瞬間でもあります。
多くの一般の人々は、こうした舞台に立つことはできません。
それでも、私たちはその姿に自らの感情や願望を投影します。
「もし自分があの場にいたら」「あの瞬間にすべてを賭けられたら」──そんな思いが、見る者の心を震わせるのです。
スポーツは、代行された人生の物語です。
アスリートは、私たちの代わりに挑み、苦しみ、輝き、そして散っていく。
その姿に、私たちは自分の人生の一部を託しているのです。

今年のワールドシリーズは、私にとって“記憶の物語化”の集大成のような時間でした。
過去の英雄たちの物語が、現在の舞台で再び息を吹き返す。
そして私は、その瞬間を見届け、語り継ぐ者としての役割を改めて実感しました。
この記録が、次世代の語り部たちにとっての“橋渡し”となることを願って──。
そして、スポーツという舞台が、これからも人々の心を震わせる“記憶の震源”であり続けることを信じて──。

 

※2025年ワールドシリーズの試合結果や概要については、以下の情報をご参照ください

2025年のワールドシリーズ - Wikipedia