地元紙 秋田魁新報記事より
秋田のスポーツ有望中学生の県外進学目立つ中… 高校入試検証へ、安田教育長が方針
安田浩幸・秋田県教育長は16日、スポーツで有望な中学生選手が県外の高校に進学する傾向が目立っていることに関し、その背景や高校入試制度のありようについて検証する委員会を立ち上げる方針を明らかにした。教育やスポーツの関係者、有識者らで構成し、早ければ7月にも初回会合を開く。3回ほどの会議を重ね、本年度中に報告書を提出してもらう。
春の東北大会が開催されるたび、SNS上では出場選手の出身中学校が話題になります。目に留まるのは、秋田県出身の有力選手が岩手や宮城、さらには関東圏の私立高校に進学している姿です。高みを目指す選手の希望もありますが、個々の判断だけではなく、秋田県の入試制度や高校構造そのものが影響している可能性があります。
特に目立つのが、公立高校の入試スケジュールの遅さです。県外の私立高校は推薦入試を1月、一般入試を2月に実施し、選手たちは早期に進路を確定し、春以降の競技活動に集中できる環境を整えています。それに対し、秋田県の公立校は3月上旬の入試が基本で、準備や調整が難しい構造になっています。
公立高校にもスポーツ推薦枠が同時期に設けられれば、県外流出への一定の歯止めとなるのではないでしょうか。
制度改革がもたらした選抜条件の変化
かつての秋田県には「前期選抜」と呼ばれる推薦入試制度があり、実技や面接を中心に評価されていました。野球に打ち込む生徒にとって、受験のハードルが低く、県内進学の選択肢も現実的でした。
しかし、現在の「特色選抜」では5教科の学力検査が重視となり、競技特化型の生徒にとっては受験準備の負担が増加。学力への不安や練習時間確保の難しさから、県外私学への進学を選ぶ傾向が強まっています。
秋田県公立高校の姿勢と制度の“ねじれ”
現行制度は、教育委員会が掲げる「学力重視」の姿勢を色濃く反映しています。しかし、現場には競技力も伸ばしたいという意欲があり、制度と現場の間にねじれが生じています。
たとえば、秋田県スポーツ協会と県教委が連携して実施する「高等学校強化拠点校制度」では、全国大会を目指す学校が支援対象となっています。一貫指導体制や国体対応など、一定の意欲は見られますが、制度全体では学力評価が優先されがちです。
部活動に熱を注ぐ生徒や指導者にとっては、制度とのズレが現場でのジレンマとなっています。
指導者体制の限界と人材の偏在
こうした状況に加え、秋田県では教職員の多くが競技経験者ではない現実もあります。教員採用では教科指導力が重視され、スポーツ歴や競技実績が評価項目になりにくい構造があります。
そのため、野球のような専門性の高い競技では、外部コーチに依存する学校も少なくありません。加えて、働き方改革の進行により、部活動への時間的制約も増えているのが実態です。
都市部と郡部での人材格差もあり、優秀な指導者が特定校に偏る傾向も否めません。
私立高校の存在と役割
秋田県内の私立高校は限られており、硬式野球部を持ち、甲子園出場を果たすなど、実績を伴うのはノースアジア大学附属明桜高校のみです。明桜は寮や設備が整い、県内外から有望選手を迎え入れてきました。プロ野球選手も複数輩出しており、その存在感は大きいものがあります。
秋田県高校野球の未来のために――3つの対策提案
① 公立高校のスポーツ特化枠の再設計
特色選抜におけるスポーツ実績評価の枠組みを明確にし、学力検査の配点を柔軟化する。
たとえば、野球部強化校に限定して実技・面接・活動実績の比重を高めるなど、制度内裁量の拡充が必要です。
② 県内私学への支援と強化
明桜高校やそれに続く強豪私学を育成するため、県と高野連の連携による助成制度を創設。寮の整備、指導者の招聘、遠征費の補助などを通じて、県内での競技力の底上げを図ります。
③ 進学・就職支援の明確化
「秋田で野球を続けても未来は開ける」という安心を提供するため、大学・企業との連携による進路保障制度を整備。
例:スポーツ特待採用枠の新設や、大学との推薦協定など。
そして、未来へ
若者の県外流出が課題とされる秋田県。野球に限らず、文化や人材を地域に根付かせるためには、現場の声と制度設計の対話が不可欠です。
秋田に生まれ育ち、汗を流し、あの夏を夢見る球児たちが「地元で挑む」選択肢をこの先の未来まで持てることを願っています。